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英国の王子2人の和解はあるか

在英ジャーナリスト  小林 恭子

 「Fab Four(ファブ・フォー)」。

 英国ではリバプール生まれのビートルズをこう呼んできた。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの「Fabulous Four(素晴らしい4人組)」の略称である。

 今年9月8日、治世70年のエリザベス英女王が亡くなった、2日後の10日、女王の公邸ウィンザー城前でその死を追悼するために集まった人々の前に姿を現したのが孫ウィリアム皇太子とその妻キャサリン妃、皇太子の弟ヘンリー王子(通称「ハリー王子」)と妻メーガン妃の4人だった。

 2台の黒塗りの車から降りてきた4人を英メディアは「Fab Four」になぞらえた。女王の死を機に「全員が一つになった」(サン・オン・サン紙、11日付)、「祖母のために再結集した」(サンデー・ミラー紙、同日付)。4人が揃って公の前に姿を現すのは、2020年、ヘンリー王子夫妻が米国に移住してから初めてだ。

 ウィンザー城周辺で生前の女王をしのんでいた市民は、王室のメンバーと会えたこと以上に4人そろっての登場に驚いた。

 1997年、兄弟の母親ダイアナ元皇太子が交通事故で亡くなったとき、葬儀に向かう道中で棺の後ろを共に歩いたウィリアムとハリー。25年後の現在、犬猿の仲と言ってもよいぐらい、その関係が悪化していた。


ウィリアム皇太子夫妻(左)とヘンリー王子夫妻が揃って姿を見せた
(「サン・オン・サンデー」紙、9月11日付)


エリザベス女王の葬儀会場に向かう、天皇皇后両陛下
(「メトロ」紙、9月20日付)

 メーガン妃との結婚からきしみか

 ダイアナ元妃死亡当時、ウィリアムは15歳、ハリーは13歳になる直前だった。ウィリアムとハリーはその後の複数のインタビューで母を失った悲しみの深さについて語っている。

 つい最近まで、兄弟は母を失った悲しみを共有する、互いを支え合う存在と言われてきた。兄ウィリアムはゆくゆくは国王になる運命だが、ハリーは王位継承権を持つものの、実際に君主となる可能性は薄く、その人生をどのように位置づけるのか、彼自身が悩んでいたという報道があった。

 その生い立ちを振り返ると、真面目で慎重な性格と言われるウィリアムは名門イートン校を優秀な成績で卒業し、スコットランドのセント・アンドルーズ大学に進学。父チャールズよりも高い学位を取得した。2006年にはサンドハースト陸軍士官学校に入学し、海軍兵学校を経て、2008年までに陸軍少尉、海軍中尉、空軍中尉となった。

 学生時代に知り合った女性キャサリン・ミドルトンと2011年に結婚し、2人は2013年に長男ジョージ、2015年に長女シャーロット、2018年に次男ルイをもうけた。ウィリアムとキャサリン夫妻が子供を作るたびに、ハリーの王位継承権順位は下がった。

 ウィリアムが着々と自らの家族を築き上げる一方で、ハリーは腰が定まらなかった。兄の後を追うようにイートン校からサンドハースト陸軍士官学校に進み、軍人としての経歴を積んだ。旧支配勢力タリバン討伐のため、アフガニスタンに複数回派遣された後、2015年に除隊。最高階級は陸軍大尉だった。

 陽気な性格で知られるハリーは国民に「自分たちの仲間だ」という印象を与え、固定ファンも多い。複数のガールフレンドはいたが、なかなか結婚までにはこぎつけなかった。

 そんなハリーが2016年に出会ったのが、米国のテレビ女優で母親がアフリカ系米国人のメーガン・マークルだった。2018年5月、2人はウィンザー城で結婚式を挙げた。

 メーガン妃との恋愛そして結婚から、ハリーとほかの王室メンバーとの亀裂が明確になってゆく。

 「メグジット」と暴露インタビュー

 2020年1月。国民も、そしてエリザベス女王子も度肝を抜かれた。ハリー夫妻が「シニア王族」としての公務を大幅に減らしたいとソーシャルメディアで宣言したのである。王室側への事前の相談はなかったという。
 この「王室離れ」を大衆紙サンは「メーガン」と「エグジット(出る、という意味)」をくっつけた造語「メグジット」と呼んだ。

 その衝撃については、本サイトの筆者記事「英ヘンリー王子夫妻はなぜ嫌われる?」 https://mediajuku.com/article/101 にも記しているが、伝統と歴史を重んじる英国では、女王の頭越しに王族が重大宣言をするのはご法度だ。また、公務は王族という特権階級であることの引き換えに行うもので、特権を維持しながら片手間に行うものではない。夫妻による公務縮小の中身を見ると、巨額をかけて改装した自宅を維持し、父チャールズからの財政支援は続行し、税金が負担する身辺警備も続くことを想定していた。

 エリザベス女王によって、同年3月いっぱいで王子夫妻の公務からの引退が決定する。

 同年夏、ハリー夫妻の公務引退までを綴った本「Finding Freedom」(邦訳版『自由を求めて』)が出版された。著者は米国のジャーナリスト2人だ。夫妻は「関与していない」というものの、夫妻の協力なしには書けない内容だった。この中で、メーガン妃との交際を始めたハリーに対し、ウィリアムが「じっくり時間をかけて交際するように」と諭したこと、ウィリアムの妻キャサリン妃がメーガン妃に対してよそよそしい態度をったことなどが紹介された。

 これだけでも王室にとっては打撃だが、追い打ちをかけるように、2021年3月、ハリー夫妻は米国の著名司会者オプラ・ウィンフリーによるインタビュー番組に出演し、さらに内情を公にした。例えば、メーガン妃は長男の妊娠中に王室のメンバーから人種差別的な扱いを受けたと告白し、ハリーは夫妻が王室から十分な支援を受けなかったことへの不満を訴えた。

 放送日から間もなくして、公務に出たウィリアムは報道陣から「人種差別的と言われていることをどう思うか」という質問を投げかけられた。ウィリアムは、「私たちは人種差別的な家族ではない」と答えている。
 
 現在の英社会で、「人種差別的」と見なされることは致命的で、家族の内情をテレビで暴露されること自体が王室にとっては最大の侮辱だ。これに反論してはさらに内情を説明せざるを得ず、事態は過熱化するだけなので、王室はたただ耐えるしかない。

 公務縮小の一方的な宣言、そして書籍やテレビインタビューを通じての家族の内情暴露はウィリアムを含む王室メンバーに相当の痛みや怒りをもたらしたに違いない。

 公務撤退前後からハリー王子とメーガン妃は英国外に居を移した。2019年に長男アーチー、2021年に長女リリベット・ダイアナをもうけ、現在は親子4人で米カリフォルニア州に住んでいる。

 和解への試み

  メグジット後、ウィリアムとハリーが会う機会は激減し、2021年7月、ダイアナ元妃の生誕60年を祝う行事では2人そろって登場したものの、その仲はぎこちないように見えた。

 今年9月8日に女王が死去し、翌9日、チャールズ新国王は即位後の国民に向けての初演説の中で「ハリーとメーガンに私の愛情を伝えたい」と述べ、女王の死という事態の下、家族の結束を呼び掛けた。

 翌日、ウィンザー城に集う市民らとの交流にハリー夫妻も加わらないかと声をかけたのはウィリアムだった。交流開始直前の連絡に、ハリーとメーガン妃は即座に対応した。

 一般国民の喪の期間は9月19日の国葬まで続いた。公務には参加しないことになっていたハリー王子とメーガン妃だが、何度もほかの王族とともに顔を見せた。しかし、ウィリアム皇太子夫妻との差は歴然だった。

 女王の棺がスコットランドからロンドンに運ばれ、14日、バッキンガム宮殿からウェストミンスター宮殿に運ばれる葬列では、棺の後に礼装姿のチャールズ国王を含む女王の4人の子供たちとともに、ウィリアム皇太子、ハリー王子が歩いた。スキャンダルで公務を外れた女王の次男アンドリュー王子と「メグジット」で公務をしないことになったハリー王子は軍服ではなくモーニングスーツの礼装である。
 
 17日、ウェストミンスターホールで公開安置された棺を女王の孫たちが囲んで黙とうを捧げる儀式では、チャールズ国王の判断でハリーは軍服の着用を許されたもの、その軍服にはエリザベス女王のイニシャル「ER」が入っていなかった。棺の反対側に立つウィリアムの軍服にはついていたのだが。

 19日の国葬ではモーニングスーツ姿のハリーは最前列のチャールズ国王の真後ろの席に座った。軍服姿のウィリアムは通路を隔てて、最前列にいた。手を伸ばして肩に触ることも、息遣いを感じることもできない座席配置である。

 ハリー夫妻は英国滞在中に予定していたイベントの出席をキャンセルし、メーガン妃は自分のポッドキャスト番組への出演を一時停止。ハリーが11月にも出版する予定だった暴露本の出版は延期になったと言われている。

 今後、ウィリアムとハリーの和解はあるのだろうか。

 保守系高級紙「デイリー・テレグラフ」のカミーラ・トミネー記者は、ウィリアム夫妻に「近い人物」の見方を伝えている(9月16日付記事)。ウィリアムとキャサリン妃は「インタビュー番組での暴露は『一線を超えた』と感じている。前に進むためには、少なくともハリー夫妻が王室に痛みを生じさせたこと、そしてそれに対する謝罪があることが必要だ」。

 別の王室関係者によると、「王室についての本が出たり、インタビューで公にされたりする相手と本音で話すのは難しい」。ハリー夫妻に対する「信頼感がない状態だ」。

 王室を国民に仕える存在と見て、「公」のために生きたエリザベス女王。時代は変わっても、チャールズ国王夫妻、ウィリアム皇太子夫妻はその姿勢を継続する見込みだ。

 ハリー夫妻は「公よりも私を重要視したい」と王室を出た。現代的感覚で言えば、「公よりも私」の方が支持されるのかもしれない。

 英国に住む一人としては、ウィリアムとハリーがひっそりと歩み寄ってくれることを願っている。

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