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女王の時代に国は栄える

塾長  君和田 正夫

  「何世紀もの間、この国は正直に働いて金を得ていない」。
 1960年代、英国労働党の大臣は自国について驚くべき言葉を吐いた。イギリス人は怠け者で、これ以上働くことを拒否する。そのくせ、より多くの消費物資を要求する、という「英国病」を指している(「イギリス衰退100年」A・ギャンブル著、都築忠七・小笠原欣幸訳)。
 「英国病」はかつて産業革命の主役だった英国が没落していくさまを揶揄した言葉として日本でも流行った。

 女性の存在感を増す英国

  「英国病」に歯止めがかかったのは、1979年、83年の総選挙で保守党が政権を奪回し、鉄の女マーガレット・サッチャーが首相になってからだ。彼女は「血液の中にまで政治が入っていた」といわれるほどの政治家だった。無知という名の「血」が流れている日本の世襲議員とは異なり、10年も首相を務め、国有企業の民営化、税制改革、規制緩和などを進めた。
 英国と日本との決定的な違いの一つに、この女性たちの存在、活躍がある。「無私」な女性たちのさらに背景には植民地の姿が見えてくる。
 エリザベス女王の70年間に、ウィンストン・チャーチルに始まって16人の首相が誕生した。うち女性首相は3人。サッチャー、テリーザ・メイ、そして今回のリズ・トラス。
 エリザベス女王の後半、女王の前では米大統領でさえ「息子」のように見えた。当然、女王は世界の視線を意識した。「慈愛に満ちた祖母」そして「世界の祖母」として振る舞っているようにも見えた。

 外と内に向かって「帝国の母」

 英国では「女王の時代に国が栄える」と言われる。「ヴィクトリア朝時代」、女王は世界の敬愛を集め、繁栄を謳った。「世界の祖母」としての今回の国葬も、世界を惹きつけることに成功した、と言っていいだろう。女王は栄える力の源泉をヴィクトリア朝の時代から学んだのだろう。
 「大英帝国という経験 島国から帝国へ」の著者、井野瀬久美恵氏は、60年を超えるヴィクトリア女王の時代(1837年~1901年)に、内と外両方を意識した二つの式典に英国の力の秘密を見る。
 明治の前半、日本が「皇位継承は男系男子に限る」という伝統を決めようとしていたころ、英国では大掛かりで、長期的な王室づくりが検討されていた。統治のための偉大な王室、あるいは七つの海に広がった植民地の更なる拡大、それらを国民に分かってもらい、海外の連盟国に理解してもらう。
 英国はそのために二つの式典を用意することにした。まず1887年にヴィクトリア女王の「即位50周年式典」を、さらに10年後に「即位60周年式典」を行う。

 王室の商品化が進む

 二度の式典では女王の顔がプリントされたマグカップや記念磁器、写真が配られ、国民生活への浸透が徹底された。これ以降、王室は商品化の道を突き進んだ、という。二度目の「即位60周年」は、さらに華やかさを増して、「帝国の祭典」であることを濃厚に打ち出した。ロンドン市内を植民地の軍隊がパレードし、市民は沸きに沸いた。
 「ヴィクトリア朝」は産業革命が成熟に達した絶頂期とみなされている。ヴィクトリア湖など世界各地に女王の名にちなんだ地名が数多く残され、イギリスは一大植民地帝国を築き上げた。今でも「イギリス連邦」には54カ国が加盟し、「英連邦王国」には15カ国が加盟している。

 「41億人に見てもらう」の発想

 国民生活にも着実に浸透した。井野瀬氏によると、ミドルクラスの国民は女王一家に理想の家庭像を見出してきたが、1870年代後半からはミュージックホールの常連、労働者たちも、出し物が始まる直前に「女王陛下に乾杯!」を叫ぶようになった。
 今回のエリザベス女王の葬儀で、英国は世界の人口の半分を超える41億人にテレビ視聴してもらうことを目指したという。今時、そんなことが可能なのはエリザベス女王しかいない。
 欧州連合(EU)の創設と離脱を経験したエリザベス女王の時代は、今後、どのような評価を受けるのだろう。王室制は続けられるのだろうか。新首相リズ・トラスはサッチャーの後を引き継ぐように北海油田・ガスの再開発に取り組むことを表明した。女性指導者の活躍が世界を変えることを祈りたい。

(2022.10.03)

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