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あなたが世論分断の主役だ

塾長  君和田 正夫

 「私が最も心配したことは、世論が分断されたことだった」。菅首相が、東京五輪について米国テレビNBCのインタビューにそう答えました(7月24日、朝日、読売新聞朝刊)。本当だとすれば、驚くべき発言です。「分断されたこと」を認識し、それを「最も心配した」と、世論分断の張本人が言っているからです。インタビューは19日に、首相官邸で行われました。どのような文脈で語ったのかわかりませんが、分断を心配しているとすれば、首相が考えるべきは当然「では次はどうする?」です。どうしますか。

  「五輪反対」は「反日」か

 東京オリンピック大会が開会式を迎えたのは、菅内閣の支持率が低下し、安倍晋三前首相の言動が注目されている最中でした。首相を退いて気楽になったのか、菅さんにハッパをかけたいのか、安倍さんは、五輪応援号と銘打った「月刊Hanada」8月号で驚くべき発言をしました。櫻井よしこ氏との対談で五輪反対論について次のように言います。
 「彼ら(五輪開催に反対の人たち=筆者注)は、日本でオリンピックが成功することに不快感を持っているのではないか。共産党に代表されるように、歴史認識などにおいても一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催には強く反対しています。朝日新聞なども明確に反対を表明しました」
 朝日新聞嫌いの安倍さんですから朝日を批判するのは、予想の範囲内としても、五輪開催への異議申し立てをいきなり「反日」「反日的」に結びつけることは、日本を代表する政治家の政治家としての資格に疑問符がつきます。「反日」を口にした瞬間に世論は分断を通り越して、存亡を懸けた敵味方に振り分けられます。「安倍―菅政権」はその道を進んで来たのではないでしょうか。

  「説明しない政治」の末路

 菅さんが心配する「分断」は「説明しない政治」から起きていることは、菅さんが一番わかっていることです。森友問題、桜を見る会、日本学術会議、コロナ、五輪、どの問題をとっても国民に向かって十分な説明がなされたことはありません。公文書も隠しまくりました。そこから生まれた分断を「最も心配している」ということを、まともに受け止めていいのでしょうか。それとも、これまでと同様に、きれいごとを言ってみただけなのでしょうか。
 安倍理論で行くと、日本人のかなりの人たちが「反日」ということになります。オリンピック・パラリンピックが目の前に近づいた時点(7月19日)でも、各種の世論調査では三分の一から半数の人たちが中止を支持していました。驚くべき数字です。
 安倍さんがお嫌いな朝日ではなく、産経・FNN(フジニュースネットワーク)の世論調査を見ても、「中止すべきだ」は三分の一の35.4%で、「無観客」が39.4%、「観客を制限」が24.4%でした(7月17、18日の調査)。産経・FNNはこの数字から6割の人が五輪を「容認」したと分析しています。「賛成」ではなく「容認」としたのは、無観客が決まったため「反対」から「無観客」に「やむを得ず」転じた人がいるということでしょうか。
 読売新聞社の全国世論調査(7月9~11日)でも「中止する」と答えた人は41%(前回48%)。大会直前になっても、世論は二分されていたことがわかります。

 安倍さんはなぜ開会式欠席か

 開会式に財界人や主要なスポンサーが出席しなかった、というのも衝撃的です。経団連の十倉雅和会長は「総合的に勘案して」欠席。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「無観客が望ましい」との考えを示してきたことを踏まえて欠席。日本商工会議所の三村明夫会頭を加えて、経済3団体のトップ全員が欠席ということになりました。
 これらの動きは「反日」「反日的」なのでしょうか。「反日」の一翼を担った、ということになるのでしょうか。
 ところで安倍さんはなぜ開会式に出なかったのでしょう。ここは政治部記者の腕の振るいどころです。安倍さんの隠れた本心を抉り出してください。2016年リオデジャネイロ五輪の閉会式では、人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のキャラクター、マリオに扮(ふん)して得意絶頂だった安倍さん。不祥事続きの五輪運営から責任逃れしたかったのでしょうか。あるいは菅さんと心中したくないと思ったのでしょうか。
 現政権の周辺には「分断」は世論が悪いのだ、と政権を擁護する人たちがいます。竹中平蔵氏もその一人でしょう。『パソナグループ』の取締役会長としても知られる竹中氏は、オリンピック・パラリンピックに対する世間の風あたりが強いことについて「世論が間違っている」と世論の誤り、国民の誤りを指摘しました。
 「世論の間違え」はなぜ生まれるのでしょう。国民に説明しない政治、その政治への不満を意図的に無視する政治。当然そこには、それらを支える人たちと異議を唱える人たちが生まれます。お互いに相手を「間違っている」という。自分に都合のいい世論は正しい、都合が悪い世論は間違っている。世論をそう区分けすると、竹中さん、あなたの意見が正しい、という世論も当然ありそうです。お互いの世論を否定し合うところには、やはり「分断」そか残りません。

 針路を誤らせる感情的な言葉

 「反日」のように扇情的な言葉は良くも悪くも世論に影響します。とりわけ指導者が使うようになったとき、国は重大な岐路に立たされるのです。
 「反日」「愛国」「売国」「亡国」「排外」「嫌中」「媚中」「嫌韓」「裏切り」「平和ボケ」といった言葉から「自分の国は自分で守れ」といった戦前のプロパガンダを思い出させる言葉まで、世論誘導は昔から政治の根幹でした。それが復活しようとしています。その中心に安倍さんがいる。私たちはなぜ長い間、安倍さんを首相として仰いできたのでしょう。やはり「世論は間違っている」からでしょうか。
 菅さん、世論の分断を修復したら、あなたは名総裁になります。

(2021.07.30)

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